日々の一杯のコーヒーから気候変動を考え、CO2削減に挑む、株式会社アルタレーナ

2023.06.08

<インタビューイー略歴>
株式会社アルタレーナ
代表取締役社長 八木 俊匡 氏

<略歴>
RIO COFFEEの代表として芦屋、神戸北野、大阪中之島の3店舗を運営。日本スペシャルティコーヒー協会の活動や、国際品評会などにも参加。また珈琲体験研究家としても活動し、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) 脳情報通信融合研究センター(CiNet) 脳情報工学研究室の協力研究員としても活動している。

※本記事はLife-Tech KOBEより転載しています。

2021年より、世界規模のSDGs課題解決に挑むスタートアップの事業開発・海外展開を支援し、兵庫県・神戸市からグローバルな社会変革を生み出すシステム・プロダクトを創造することを目指し、グローバルなSDGs課題解決を目指す共創プログラム「SDGs CHALLENGE」が誕生しました。本プログラムに採択されたスタートアップを紹介していきます。

<サービス紹介>
「消費者が主体となり環境価値を生むValue _wayプロジェクト
気候変動で2050年コーヒー生産が半減する研究報告がある。そこでプロジェクトでは国際NGOと連携しアフリカでの実態調査を開始。全世界における生産時排出量のデータ化を目指す。サービスの特徴としては、消費者が主体となって消費体験を記録することで排出量が確定するという環境価値モデルを採用。さらに消費後のコーヒーかす再資源化による排出量削減実証実験を神戸で実施。今後は社外メンバーと共に生産から再資源化までのデータをブロックチェーンに記録し、経済循環するサービスを準備中。

「2050年問題」の解決に向けて、コーヒー消費国の行動変容を促す。

-起業するまでの経緯ときっかけを教えてください。

八木氏(以下、八木):私が起業したのは2005年のことですが、その時まで私は企業勤めをせずフラフラして、いわゆる社会不適合なタイプだと思っていました(笑)働くためには自分でなにかやるしかないな、と思っていたところ、学生時代母が喫茶店を経営していたことでコーヒーが身近にあり、エスプレッソの奥深さに心惹かれてコーヒー店を始めました。その頃からスペシャルティコーヒーが少しずつ日本に浸透しはじめ、従来の濃くて苦いコーヒーではなく、華やかでフルーティーな味わいに衝撃を受け、自身でも広めていきたいという思いから2009年に自家焙煎をはじめました。美味しいコーヒーを広く皆さんに提供していきたいと思う一方で、気候変動の影響で今のようにコーヒーが飲めなくなる「2050年問題」を知りました。スペシャルティコーヒーはアラビカ種という豆が利用されているのですが、アラビカ種は寒暖差のある標高が高いエリアで比較的多く生産されている品種です。その生産地が気候変動の影響を受け、2050年までに適正な土地が半減しコーヒーの収穫量が減ってしまうのです。これらの課題を解決するために生産国では、品種改良など様々な手段が取られていますが、我々消費国でもなにかできることはないかと考え、新たに『Value way』というプロジェクトを始めました

-『Value Way』プロジェクトとはどんな取り組みですか。

八木:『Value way』プロジェクトでは、CO2の見える化により消費者の行動変容を促すことに加え、コーヒーかすのアップサイクルによるCO2の削減にも取り組んでいます。CO2削減はあらゆる企業が取り組んでいますが、やはり消費者を巻き込まないと限界があります。コーヒーは生活になじみのある商材なので、コーヒーをきっかけにCO2削減に意識を向けてほしいと思い、1杯のコーヒーから排出されるCO2を可視化する専用アプリを立ち上げました。皆さんが実際にコーヒーを消費したということを記録することで排出量が確定し、記録できる仕組みです。
また、CO2削減に向けた取り組みとしては、店舗で廃棄されるコーヒーかすでバイオ炭(自然の有機物から作られた炭)を作り、廃棄物削減とCO2削減につなげる取り組みを行っています。バイオ炭の農地施用は国際的に認定されている脱炭素方法として注目されており、それを消費後のコーヒーかすから作ろうという取り組みです。

-新たなチャレンジをすすめるにあたっての課題はありますか?

八木:ありますね。店舗やコンビニ等から出るコーヒーかすは一般事業系廃棄物の扱いになり、その収集運搬には市の許認可許可が必要なのです。したがって現行法では我々は取り扱いができません。バイオ炭になるコーヒーかすは有価物になるのかどうかなど、市の担当者と丁寧にコミュニケーションを取り、課題を一つ一つ潰しながら適法可能性を探っていますが、市によって解釈が違う場合もありますので、全国展開はなかなかハードルが高いなと感じています。

約80万トンのCO2削減を目指して

–SDGsチャレンジにご参加を決めた理由を教えてください。

八木:私はSDGsチャレンジ開催場所でもある起業プラザの会員ですので、”SDGsチャレンジ“の存在は1回目の開催時から知っていました。自治体が取り組むプログラムということで安心感もあり、自身が解決したいSDGsをテーマに海外実証を支援してくださるところが魅力的でした。実は第1回の開催時から応募していたのですが、当時はまだやりたいことが明確ではなく、結果は不採択。今回の2回目のチャレンジで、先にお伝えしたような「2050年問題」を解決するために私自身が取り組むべきことを明確にし、具体的に動き出すタイミングで応募したところ、採択いただき参加することとなりました。

-実際に参加されて、いかがでしたか?

八木:現地調査確認とコーヒーの買付で1月にルワンダとエチオピアに行きました。ルワンダを選んだ理由は、カーボンフットプリントの現地調査を行うNGOがルワンダにいたということが主な理由ではありますが、神戸市はルワンダのキガリ市とパートナーシップ強化に取り組んでおり、よりサポートをいただけそうだと思ったことも理由の一つです。また、エチオピアにも訪問し同様の取組を進めたいという話をしたところ、大変共感いただき今後取り組みを進める話となりました。このような機会を与えていただけて本プロジェクトには感謝をしています。

-今後社会に対してどのような価値を提供していきたいと考えていますか。

八木:コーヒーは嗜好品です。飲む人の気持ちを落ち着かせる一杯かもしれないし、やる気を出させる一杯かもしれない。一人一人に嗜好にあうコーヒーを環境に配慮した形で、品質を落とさずにお届けできる社会の実現に向けて、「Value Way」プロジェクトを進め、日本国内で消費されているコーヒーかすを再資源化することで約80万トンのCO2を含む温室効果ガスの削減をコーヒー愛飲家の皆さんと共に目指していきます。