<インタビューイー略歴>
ZESST by Almatech
Ph.D.,Head of ZESST Luc Blecha 氏<略歴>
スイスの宇宙・船舶エンジニアリング会社アルマテックの共同設立者であり、水素を動力源とする高速水中翼船ZESSTの最高責任者。スイス連邦工科大学チューリッヒ校を卒業後、スイス連邦工科大学ローザンヌ校で機械工学の博士号を取得。アルマテック社設立と同時に、当時世界最高速の記録を樹立したスイスの高速ヨット「L’Hydroptère号」に水中翼と超安定構造・制御技術を提供した。ZESST by Almatech
ビジネス開発マネージャー 三崎 由美子 氏<略歴>
アルマテックの日本市場開拓を担当するビジネス開発マネージャー。フランス・パリ第五大学にて社会学修士・博士前期課程修了後、コンピュータ・ビジョン技術を扱う国際企業の日本代表として、15年にわたり革新的技術の日本市場開拓の経験を積む。2018年よりスイスに拠点を移し、スイス連邦工科大学ローザンヌ校EPFLのスタートアップをはじめ、欧州企業と日本企業の架け橋として活動し、2020年よりZESSTのチームに参加して今に至る。※本記事はLife-Tech KOBEより転載しています。
2021年より、世界規模のSDGs課題解決に挑むスタートアップの事業開発・海外展開を支援し、兵庫県・神戸市からグローバルな社会変革を生み出すシステム・プロダクトを創造することを目指し、グローバルなSDGs課題解決を目指す共創プログラム「SDGs CHALLENGE」が誕生しました。本プログラムに採択されたスタートアップを紹介していきます。
<サービス紹介>
水素を動力源とする高速水中翼船ZESSTを開発しています。ZESSTは、水の抵抗を最小限に抑え、エネルギー消費を85%削減し、巡航速度時速50kmに達します。CO2を排出しないゼロエミッション船は、波も騒音もほとんど出さず、生態系を保護するとともに快適な乗り心地を提供します。渋滞した陸路のかわりに高速水素船を利用することで、移動時間やストレスが軽減され、利用者の生活の質の向上をもたらします。 ゼロエミッションであるばかりでなく、既存のディーゼル船よりもはるかに高い経済性・採算性を誇ります。
社会課題の解決と採算性の高い事業の創出を同時に実現する
-事業の創業の経緯及び参加のきっかけを教えてください。
Blecha氏(以下、Blecha):当社は、宇宙工学の分野で13年の経験と信頼を積み重ねてきました。そこで培ったノウハウを船舶工学に応用することで、海上輸送の脱炭素化に貢献したいと考えたことがZEESTの開発のきっかけです。
三崎氏(以下、三崎):スイスを拠点に日欧企業交流の仕事をしているときに、アルマテックとZESSTのプロジェクトの存在を知り、設立者の情熱と技術力の高さに感銘を受けました。私は設立者ではありませんが、「保守的」とされる日本の海運業界に、画期的な次世代ゼロエミッション船ZESSTを紹介する仕事に、起業家精神で日々挑戦しています。
–SDGsチャレンジにご参加を決めた理由を教えてください。
Blecha:2025年の大阪万博にZESSTを出展するという直近の目標を実現するために、まずは水素社会の実現を目指している神戸市と兵庫県に着目しました。これらの自治体が主催するSDGs Challengeに参加することで、共通の社会的課題解決という問題意識を持つ企業との強固なネットワークを構築することができました。
三崎:スイスのイノベーションを後援する公的機関からSDGsチャレンジの推薦を受けた際に、兵庫県・神戸市・国連機関の主催である点に特に注目しました。ZESSTの日本市場参入には、舶用水素インフラ環境が不可欠であることが分かり、水素事業に注力する自治体を中心にビジネス開発を進めていたからです。実際、SDGsチャレンジへの参加がきっかけとなり、自治体の皆様の多大なバックアップをいただき、高い技術力を持つ日本企業とのネットワークを築くことができています。
-今後社会に対してどのような価値を提供していきたいと考えていますか。
Blecha:現時点ですでに市場で最も低い総所有コストであるZESSTの技術により、CO2排出量ゼロの快適で安全な旅客船を世界中に普及させ、社会課題の解決と採算性の高い事業の創出を同時に実現していきたいと考えています。
三崎:ZESSTのビジネス開発の活動を通して、真の意味での「ゼロ・エミッション」とは何か、という視点を持つ重要性を学んでいます。船が航行にあたってCO2を出さないことはもちろん、船の製造過程、素材、燃料となる水素の製造過程や原料などもトータルに考慮し、包括的に脱炭素技術であると言える技術の活用を目指す必要があります。さまざまな分野でソーシャルインパクト事業に取り組む他の参加者の皆様からも、このような包括的な視点、観点を大いに学び、ZESSTの活動を通して社会に還元したいと思います。