<インタビューイー略歴>
NUProtein株式会社
南 賢尚 氏<略歴>
1961年生まれ。経営学修士、経済学博士課程満期退学。1985年にパナソニック株式会社(旧: 松下電器産業株式会社)に入社後、SDカード、DVD等の標準化、米国にてコーポレートベンチャー投資、インキュベーション業務に従事。2014年1月名古屋大学学特任講師。2016年8月名古屋大学を退職しNUProtein株式会社を設立、代表取締役に就任。※本記事はLife-Tech KOBEより転載しています。
2021年より、世界規模のSDGs課題解決に挑むスタートアップの事業開発・海外展開を支援し、兵庫県・神戸市からグローバルな社会変革を生み出すシステム・プロダクトを創造することを目指し、グローバルなSDGs課題解決を目指す共創プログラム「SDGs CHALLENGE」が誕生しました。本プログラムに採択されたスタートアップを紹介していきます。
<サービス紹介>
NUProtein(ヌープロテイン)は、植物を出発原料に機能性タンパク質を極めて安価に提供する会社です。出発原料として、食用コムギ胚芽・イネ等を用いて、機能性タンパク質を合成し、これを細胞培養に使っていただくことで、細胞農水産業の産業化と、ひいては気候変動・タンパク質危機の緩和を目指しています。
支援してくれる人がいるから事業を続けることが出来る
-SDGsチャレンジにご参加を決めた理由を教えてください。
南氏(以下、南):私たちは2020年の中旬あたりまで神戸医療産業都市(KBIC)に本社、ラボを徳島に置いていたのですが、コロナウィルスが蔓延してきたタイミングで本社とラボを統合しようと決め、ラボのある徳島に本社を移しました。徳島に本社を移転したものの、基本的には兵庫県内の自宅で仕事をしております。 したがって、神戸で何かをするということは私にとってメリットが大きい場所でありました。また我々が培養肉メーカーに対して、製品提供を行おうとしているところでございまして、培養肉を通じて「気候変動」や「たんぱく質危機」に貢献できると常日頃から口にしており、SDGsの課題解決に向けて活動していたところでした。しかも培養肉市場というものが、国内にほとんど存在しておらず、海外に向けて活動しなければならない領域ですが、海外マーケットへの参入を支援してくれるプログラムであるということで、当社として非常にメリットがあると感じ、参加を決めさせてもらいました。
-海外への挑戦を支援してもらえるというのは会社として非常に大きなメリットだったのですね
南:そうですね。国内に我々のビジネスチャンスがほとんどないため、「人」と「お金」が用意できればすぐにでも海外へ行きたいと考えていました。この2つがなかなか集まらず、苦戦をしていたのですが、今回のようなプログラムがあることは非常に有難いと思っています。一方で、先日JETROからの支援によって、シンガポールの培養シーフードの企業とライセンス契約を締結しました。日本国内にいたとしても支援機関を通じて、海外企業との接点を持つことが出来れば、取引につながるということを実感したところでもあります。もちろんここからさらにビジネスとして発展すれば、フィールドサポートが必要になる可能性もあり、物理的に海外に拠点を持たなければならなくなりますが、その前段階からサポートしてもらえる環境を整えていただけていることはSDGsプログラムも含め、私のような起業家は非常に助かっていると思います。
-NUProteinのようなビジネスには様々な支援が必要なのですね
南:そうですね。我々がビジネスを存続できているのは、神戸市を含めた、各自治体や国から補助金という支援があるからです。世界的に「たんぱく質危機」という問題が取り上げられるようになっていますが、創薬メーカーや製薬メーカーにとってタンパク質はキーマテリアルでございますので、これが不足してしまうと薬が作れなくなる可能性もあります。そういった部分まで含めれば我々の事業がターゲットとするマーケットは非常に大きいと思いますので、海外市場に我々の商品を流通させて成長することで、これまで支えてくれた人たちにしっかり還元しなければならないと考えています。一方で、私自身気になっている問題として、我々のように行政から支援を受けた会社が海外に流れて、返って来なくなることは問題だなと思っています。
「日本」の企業として、海外に挑戦したい
–現在認識されている問題を具体的に教えていただけますか
南:先ほど申し上げたように、我々のような研究をベースとするビジネスというのは時間もかかりますし、お金もかかります。それにもかかわらず、成果が見えづらいため、人もお金も集まりづらく公的機関の支援がなければ成り立ちません。 このような状況なので、例えば海外企業で研究開発を支援してくれる会社が出てきた場合、誰もが「ぜひ一緒に進めたい」と連携を望むでしょう。もちろん私たちは世界中の人々の生活を豊かにしていくことが目的ですので、国内・国外問わず一緒にできるものであれば、積極的にご一緒すべきだと考えています。しかしながら国の支援を受けているのにも関わらず、海外企業に流れてしまうことは非常に勿体ないと個人的に感じています。まだ明確に答えがあるわけではありませんが、どうにかして国内で生きていく方法を作れないかとは考えています。
–なるほど。解決していくためには様々な問題があるのですね
南:そうです。先ほど医療分野において、たんぱく質は創薬メーカーや製薬メーカーのキーマテリアルと話しましたが、大手企業がスタートアップから調達をするというのはサプライリスクがあるため、なかなか手が出せないという現状もあります。海外だと大手企業が研究段階のものに多額の資金援助をしたり、共同開発に乗り出したりするなど、動きが活発ですので、日本国内でもそのような動きが増えてくると良いと思います。またそこに付随する部分でもありますが、日本では革新的な新薬の薬価が海外と比較すると低く設定されてしまう状況にあり、企業が開発に成功したとしても日本国内にいては赤字となる可能性があります。このような状況では日本での新薬開発が進まず、その結果として我々のような研究が国内で活用されづらい状態となります。その反動によって、国内の先進的な研究や技術が海外へ流れやすい仕組みとなってしまっているので、このあたりも少しずつでも良いので変えていくことができれば、国内企業が海外に対して競争力を持つことができるのではないかと考えております。
‐複雑な課題もある中、今後どのような課題解決のアプローチを取るのでしょうか
南:先ほどから医療関連の話が多くなりましたが、その領域に我々の研究を持ち込むのはまだまだ先の話だと思っていますので、まずは食品分野でしっかりと活用してもらえる状態に持っていくことが重要だと思っています。そして我々の成長のためには、人材と資金が非常に重要になっているので、この問題を解決していくためにも影響力のある企業様と組み、研究と組織力を掛け合わせ、より大きな価値を社会へ提供できる体制にしたいと考えています。また先ほどお話ししたように、新産業の創出には規制も絡んでくるため、農林水産省をはじめとする官公庁の方々とは様々な議論を開始しています。我々の研究を、ビジネスとして立ちあげることに力を入れるのと同様に、社会に「価値を認めてもらうこと」も非常に重要なことだと考えておりますので、技術を持つ企業の責任として、積極的に情報発信を行い、世の中も動かしていきたいと考えています。