いつでも、どこでも新鮮な農産物を届けるために。農社が切り拓く、新たな農業のかたち

2023.06.08

<インタビューイー略歴>
株式会社農社
代表取締役 奥野 竜平 氏

<略歴>
兵庫県立洲本高校を卒業後、乾燥地での食糧生産を志し、鳥取大学農学部に進学。卒業後は、兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科にて施策マネジメントを学ぶ。その後、福岡県職員(農業職)として、農業普及指導員資格を取得し、農研機構アドバイザリーボード委員も務める。その後福岡県試験研究機関に所属し、水稲麦大豆の研究に従事。故郷であり食の宝庫である淡路島を拠点にて起業。

※本記事はLife-Tech KOBEより転載しています。

2021年より、世界規模のSDGs課題解決に挑むスタートアップの事業開発・海外展開を支援し、兵庫県・神戸市からグローバルな社会変革を生み出すシステム・プロダクトを創造することを目指し、グローバルなSDGs課題解決を目指す共創プログラム「SDGs CHALLENGE」が誕生しました。本プログラムに採択されたスタートアップを紹介していきます。

<サービス紹介>

農家の「軒先販売」をスマート化した無人販売所「とどけもの」を、マンションやオフィスなど人が集まる場所に設置する。本事業では①生産者が価格・出荷量を決定②消費者が手にとって選べる③生産者のこだわりを消費者に伝える。事業の目的としては、生産者の所得向上及び消費者の幸福度向上を目指す。また本ロジスティクスを地域内で確立することでフードマイレージ削減にも寄与することを目標とする。

たくさんの人と協力して、より大きな課題を解決する

-SDGsチャレンジにご参加を決めた理由を教えてください。

奥野氏(以下、奥野):現在、兵庫県と連携しながら農業分野で様々な取り組みを進めさせていただいているのですが、参加のきっかけは県からの紹介でした。当社で「とどけもの」という農産物の無人販売システムの開発に着手しており、農業分野をより進歩させていくために、県の方々と色々とやり取りしている中で、私の事業がSDGsに資するものだと評価いただけたのか、今回のプログラムを紹介されました。 このプログラムについて、県以外の方々にも、どのような取り組みなのか聞いてみると、なかなか面白そうなコミュニティが出来つつあることを知り、参加させていただく決断をしました。

たしかに「農業」はSDGsの様々な領域に絡んでいますね

奥野:そうですね。農林水産省が出している「みどりの食糧システム戦略」にもある通り、非常に親和性も高く、密接に関わっている領域だと思います。私自身、鳥取大学の農学部出身で、ここは乾燥地研究が盛んで、私もその領域の研究を進めていたのですが、研究を進めれば進めるほど、日本の農業が「これから大変なことになる」という危機感を強く持つようになりました。そういった背景があり、今の事業に至っています。ある程度、研究をしていたこともあり、農業に対しての知見はあるものの、あくまでも「農業」という産業に対しての課題感を持っているだけであって、まだSDGsという世界的に大きく課題と捉えられているものについては、まだ未熟な部分がありますので、今回のプログラムに参加して、私自身の知見をしっかり深めていきたいと考えています。

なるほど、では農業の課題に対してはどのようなアプローチをとっているのでしょうか

奥野: 現在は農家さんに対するコンサルティングや自社農園を持ち自分で農業を行っています。元々福岡で仕事をしていたのですが、Uターンで兵庫県に戻ってきて、最初はこのタイミングで私も実際に就農しようと考えていました。しかしながら、周りの人たちに自分の持っている課題感について相談してみた結果、就農して解決を図るよりも、「農業コンサルティング」という形をとった方が良いという結論に至りました。この意思決定の背景に、小さな頃から抱いている「人の命を救いたい」という想いがあります。就農することで課題解決を図るよりも、たくさんの農家さんと協力していく方が、自分が本来持っている想いにかなっていますし、なにより課題解決のインパクトが大きくなるはずです。より多くの農家さんと一緒に仕事をすることができれば、自分が想定しているスピードよりも速く、さらに大きな影響が与えられるだろう、ということで現在の事業に至っています。

自分自身が実験体となり、新たな取組へのハードルを下げる

–より大きなインパクトを与えるために、これからどのような取り組みをしていくのでしょうか

奥野: 世の中に広く知られている問題として、「就農人口の減少」がよく取り上げられます。これが進むと食料生産が難しくなり、今まで以上に食料調達にかかるコストが大きくなってしまいます。このような状況が進み、事態が深刻化する前に「スマート農業」を普及させることが重要だと考えています。現在も県と連携しながら進めていますが、農業の現場と支援する機器のマッチングを推進にこれまで以上に注力していきたいと思っています。またこれらを推進していくために、農家さんの「経営感覚」を高めていくこともすごく重要だと思っていますね。経営感覚を高めていくために重要なこととして、農家さんにどのように農場を運営していくと良いのかちゃんと説明できなければいけないと思っています。「この農場運営ができれば、これだけの収益が上がるよ」と明確に示めせるように、自社農園で新たな機器や新品種を導入して、いろいろ試したりしています。自分が使ってみて、成果を残すことが出来なければ農家さんが納得する説明ができないと思っていますので、ある意味、農業経営の実証現場として自社農園を運営している部分がありますね。

-その世界観を実現するには、様々な問題を解決していかなければいけなさそうですね

奥野:その通りですね。 新しいものを取り入れるのは誰でも最初は躊躇すると思いますし、しかもそれが良いものかどうか分からなければ尚更です。このあたりは私自身が実験体となって、いろいろ試しつつも、より多くの農家さんに使ってもらえるようになるには私ではない、その地域を引っ張っていけるリーダー的存在の人が最初のユーザーになってもらうことが大事です。そういう方は、私以上に農業に対して、様々な思いを持ち、考えを巡らされていますので、協力して成功事例を生み出していきたいです。最初の成功事例が出来てしまえば、新たな取り組みに対するハードルが下がり、周りの農家さんも取り入れやすくなるはずですので、地域の農家さんと密に連携をしながら、より良い農業のスタイルを生み出していきたいですね。そしてなにより、ここまで「農業」という産業に対しての課題解決の話をしていましたが、目の前の農家さんが抱える最も大きな課題は「流通」ですので、冒頭にお話しした「とどけもの」というサービスを普及させることで、農家さんの課題解決を図り、日本全国いつでも、どこでも新鮮な農産物が買える環境をつくりたいですね。