すべての人に医療の安全と質が保証された世界を。世界へ十分な医療を届けるためのRedgeの挑戦

2023.06.08

<インタビューイー略歴>
株式会社Redge
代表取締役 稲垣 大輔 氏

<略歴>
臨床工学技士:CE・公衆衛生学:MPH(修士)
途上国への医療支援を通して、現地の医療課題を認識したことで、神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科に進学。
医療機器開発プロセスを学べる東京大学バイオデザインフェローシッププログラム修了し、アジア・アフリカ向け医療機器開発も目指している。JHeC2022アイデア部門グランプリ受賞。

※本記事はLife-Tech KOBEより転載しています。

2021年より、世界規模のSDGs課題解決に挑むスタートアップの事業開発・海外展開を支援し、兵庫県・神戸市からグローバルな社会変革を生み出すシステム・プロダクトを創造することを目指し、グローバルなSDGs課題解決を目指す共創プログラム「SDGs CHALLENGE」が誕生しました。本プログラムに採択されたスタートアップを紹介していきます。

<サービス紹介>
医療機器管理教育システム「CeTrax」
医療機器管理教育システムにより、医療機関のDX化をサポートし、病院の経営改善や病院が抱える医療機器の管理・教育の課題を解決します。

時が経てば「いつか変わる」なんてことはない

-SDGsチャレンジにご参加を決めた理由を教えてください。

稲垣氏(以下、稲垣): 私たちの取り組み自体、SDGsで掲げられている目標の3番にある「すべての人に健康と福祉を」に該当すると思っています。医療に携わるところであれば、ほとんど該当するとは思いますが、その中でも我々は「医療機器管理教育システム」を医療現場に提供することで貢献していきたいと考えています。私自身、起業する以前は、臨床工学技士として医療現場で7年ほど従事していました。子供のころから「発展途上国の医療」に関わりたいという想いがあり、現場で働きながら「有給をとって医療支援に行く」という生活をしていましたね。そこで目の当たりにしたのが、途上国の医療現場では医療機器の保守点検が行われておらず、手入れも行き届いていない状況でした。そもそも使えるものなのか、壊れているのかもわからないくらいの状態ですし、日本のように医療機器が清拭されているわけではないので、衛生的にも良くない。こういった現状を少しでも変革していくために、現在の事業を始めました。

–では、課題解決のために臨床工学技士からそのまま起業されたのでしょうか

稲垣: いえ、自分がこの課題を解決できるようになるために、まずは大学院で「公衆衛生」について学ぶことに決めました。正直ボランティアをしている間、今抱いている課題も、時が経てば「いつか変わるだろう」と思いながら続けていました。ところが、私が働いていた数年という期間では、何も変わらない。誰かがやらなければずっとこのままだと思いはじめ、途上国からの帰りの飛行機の中で、大学院へ行くことを決めました。ただ、入学してみたものの、大学院で行う研究というのは非常に長い時間を要するもので、自分がイメージしている課題解決の時間軸とずれがありました。なので、大学院での研究だけでなく、他のアプローチが取れないかと模索していたところ、次世代アントレプレナー育成事業である「EDGE-NEXT」やグローバルイノベーター等育成プログラム「始動Next Innovator2022」に出会い、事業プランを練り始めました。大学院2年生になって、そこで出会った仲間とともに、練り上げた事業プランをJST(科学技術振興機構)が行うSCORE-ギャップファンドプログラム-に応募したところ、採択いただき助成金を使いながらシステム開発や実証実験を行ってきました。在学中は基本的に、大学での研究と実証実験の2つを同時並行で進めていたのですが、「卒業してしまったら、この後、この研究テーマをどうしていけばいいのか」色々と考えるようになりました。そのような中、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテストでアイデア部門でグランプリを頂いたり、多くの方々の協力や応援が、後押しとなり、病院を辞めて、起業する選択をしました

ビジネスとして循環させることで、持続性が生まれる

-なるほど、大学での研究・起業によって課題解決へ踏み出していったのですね

稲垣: そういうことになります。ただ実際に自分で事業を興してみると、我々が取り組む領域は課題解決をするのも、ビジネスをするのも非常に難しい領域であると再認識しました。私の原体験をベースにしたこの事業は、NPOとビジネスの間にあたるようなもので、すでに途上国への支援にはNPOなどの様々な団体が入り込んでいるため、そのスキームを飛び越えて、いきなりビジネスをしにいくのではなく、うまく連携しながらやらなければならないと感じています。一方で、途上国で活動する団体の多くは資金が尽きてしまうと何もできなくなってしまうことも事実としてあります。特に「持続性」の観点からはビジネス的な視点が重要であり、本当に必要であるサービスを現地に提供していくことで、常に継続して支援ができる状態を作っていけると思っています。

–目の前に起きる課題だけでなく、支援自体の構造も変えていきたいということなのですね

稲垣:今もたくさんの方がボランティアで途上国の支援をしており、これ自体は非常に良い取り組みであると心から思っていますし、実際に私も携わっていたのでこの取り組み自体は続いてほしいと思っています。しかし、本当に必要なものであれば「お金を払ってでも調達する」ということも事実としてあるはずです。途上国が必要としている支援を続けるために、ボランティアの手がすでに入っているが故に、なかなか考えられなかった支援の構造自体も、私たちがビジネスの世界に飛び込み、その仕組みで支援をしていくことで、アップデートしていきたいと考えています。

‐稲垣さんが目指す世界を実現するために、今後どのよう価値を社会に提供していくのでしょうか

稲垣:私が考えるゴールとしては、「誰が、どこに住んでいても、医療の安全と質が保証された世界」を実現したいと考えています。そのために目先としては高度な医療機器が安全に使用することができる、そして高品質の医療を受けることができる状態にするために、現在進めている医療機器管理教育のサービスを世の中に広く提供していきたいと思っています。そしてそれが普及した先には、アジア・アフリカに向けの医療機器開発に取り組んでいきたいと考えており、さらなる課題解決を行っていくことで、少しでも多くの人が医療を安心、安全に受けられる状態を作っていきたいと思います。