2021年よりスタートした兵庫県・神戸市のスタートアップ支援プログラム「SDGs CHALLENGE」。このプログラムは、世界規模のSDGs課題解決を目指すスタートアップなどに、アクセラレーションプログラムやメンタリング・ネットワーキングの提供を通じて事業開発・海外進出を支援しています。2022年度に参加した株式会社Dots for(ドッツフォー)は、アフリカの地方農村部で独自の無線技術を活かしてデジタル化を推進する取り組みを加速させています。同社にとってSDGs CHALLENGEはどのような魅力や価値があったのでしょうか。代表の大場カルロスさんにお話をお聞きしました。
株式会社Dots for
代表者:大場 カルロス 博哉
設立: 2021年10月
住所:東京都港区南青山2-2-15
URL:https://dotsfor.com
アフリカ農村部でインターネットに接続できないユーザーに対して無線技術「メッシュネットワーク技術」を活用した無線Wifiネットワークインフラを安価かつ短期間で構築する「分散型通信」を採用したデジタルプラットフォーム「Smart Village」をつくり、地方にいても都市や先進国と遜色ない生活を送れる世界を、アフリカの全農村に広げようとしている。
アフリカ農村部の人たちに、世界とつながるきっかけを
—社名のDots forや社名ロゴにはどのような意味が込められているのでしょうか?
我々は、アフリカ農村部にネットワークインフラを作り、そこでデジタルサービスを展開することで、農村住民がこれまでアクセスできなかった情報にアクセスできるようにして、彼らの収入を上げていく取り組みをしています。情報を作っていくというのが僕らのやっていることです。
アフリカの農村の人々や村々をつないで彼らをエンパワーすることを目指して、「Dots for」と名付けました。
また、アフリカの大地を航空写真でみると、赤土の中にポツポツと白い点があり、この白い点を拡大していくと村々になっている。このような村々をドットとした時に村やそこにいる人々が抱えている課題を我々が繋ぐことで解決したいという想いがあって、「赤錆色」と呼んでいるコーポレートカラーと白いドットのロゴで表現しています。
—そもそも、なぜネットワークインフラ構築を事業ドメインにされたのでしょうか?
これまで旅や仕事を通して、いろんな国を見てきました。経済面や生活面など先進国と途上国の差や都市と地方の差といったものが非常に大きいと感じていて、その中でも一番取り残されているのが、アフリカの農村部だと感じたんです。
きっかけをつくるにはと考える中で、通信があれば村々が世界とつながることで閉鎖的だった経済活動やコミュニケーションがオープンになり、この格差を埋めることができると考えました。そこでアフリカの農村部で通信環境を整えるということを選んで活動をしています。
—水道や電気などのインフラ整備を支援する企業や団体の事例はありますが、「通信」という分野が進まない背景にはどんなことがあるのでしょうか?
通信をするにしても電気は必要ですし、これまで有効な手法がなかったのだろうというのが我々の見立てです。今は、通信会社である程度のカバーができるようになったのもあり、それで良しとされている状態です。しかし、蓋を開けてみればつながらない人たちがまだまだ沢山いて、でもその解決に取り組む人が少ない状況がありました。
通信会社はあくまでも営利企業なので、収入が低い農村地域にインフラを整備しても投資回収ができないという判断をしています。そのため、都市部に集中的に投資をすることで収益性を上げようとするので、地方に対しての対策が遅れているのです。
有意義な時間をもたらした、週1のファウンダーズミーティング
—Dots forでは創業から1年弱の間にさまざまな取り組みをされていますが、SDGsチャレンジに参加された理由を教えてください。
地域活性化に取り組む組織とのつながりを強化したいという思いがありました。
スタートアップ支援に力を入れる神戸市が共催というのが大きな理由のひとつです。プログラムでの現地参加は、原則としてUNOPS(国連プロジェクトサービス機関)が開設したスタートアップ支援施設「UNOPS S3i Innovation Centre Japan」を会場にして行われました。UNOPSや関連組織とのつながりを持てるのではないかという期待もありました。
あと、プログラム自体に直接の関連はありませんが、現地メンバーの中に神戸市の神戸情報大学院大学の卒業生が複数人います。その学校は、情報通信の知識を活かして社会課題の解決やビジネス創出を学ぶ学校で、アフリカからの留学生を多く受け入れている学校です。より神戸市とのつながりも強くなっていくのではと縁を感じました。
—実際にプログラムに参加されていかがでしたか?
最初は正直、かなり厳しいプログラムだと思っていたんです。週1回、1時間のファウンダーズミーティングに参加するのは「だいぶ時間とられるな」って思って(笑)。しかし、結果的にこのミーティング時間がとても大事だったと思いましたね。
ファウンダーズミーティングでは、毎週、テーマに基づいて参加者が自社の課題を共有します。社会課題の解決に取り組むスタートアップの人たちから、同じような課題を聞けるし、壁打ちのようなこともできるので、有意義な時間でよかったと思っています。
—プログラムの中に高頻度のミーティングがあったのは意義のあることだったのですね。
そうですね。参加者たちと過ごす中でだんだんとコミュニティとして成熟していく実感がありました。刻々と事業の状況や課題も変化するので、今ある課題や悩みをぶつけることができてライブ感がありました。僕は東京にいて基本はオンライン参加をしていました。参加企業の中に東京を拠点にする方も参加していたので、ファウンダーズミーティングとは別に、東京で悩み相談をし合う集まりもするようになりました。
—このプログラムの魅力をどのように感じていらっしゃいますか?
キックオフや期間の中盤などはリアルでも会う時間を設けていた点もよかったですし、SDGs CHALLENGEを運営するスタッフのみなさんが頻繁にいろんな情報を発信してくれていたのもありがたかったですね。
例えば、ファウンダーズミーティングのテーマに対して、それまでに読んでおくとよいものなどの事前アナウンスやミーティング後にその日話題になった資料を全体共有してくれたり、参加者たちに有益なイベント情報をシェアしてくれたりと細やかなサポートがありました。
SDGs CHALLENGEは、事業をスケールさせるきっかけになる
—プログラムを経て、事業やご自身の変化や取り入れたことはありますか?
ウィークリーで社内リーダーズミーティングをするようになりました。取締役と現場のリーダーたちと、毎週、現状報告や将来のことを話すといったこともしています。それまでは、ファウンダーと2人で定期的に打ち合わせをしていたものの、現地のリーダー層との定例を設けていなかったので、SDGs Challengeでのファウンダーズミーティングが少なからず影響を受けたと思っています。
—プログラムの縁によるアライアンスなどはありましたか?
SDGs ChallengeのWebサイトで、プログラムの採択企業を見たという物流業界のとある会社から連絡をいただきましたね。まだ具体的な進捗はありませんが、僕たちの通信技術を活かすことができるかもしれないと問い合わせてくださったんです。SDGs Challengeに参加したことによる反響はあります。
コミュニティづくりからの学びもありますし、実証実験の予算がつくというのは魅力的だと思いました。実際に、2023年2月から2週間程の期間でコンゴ民主共和国の現地の通信会社と連携したインターネット設備の設置やネットワーク構築を行う実証実験を予定しています。(2022年12月取材時点)
—今後の展望についてお聞かせください。
地方農村部は農業をする人が大半で、ほぼ産業がない状況です。所得の低さゆえに継続的に支払いができない状況を変えるためにも、どうやって彼らの収入を上げていくかを考えていく必要があります。僕たちの展開するサービスを通して事業拡大していけば、やがて村の人たちの事業も幅広くなり、雇用にもつながります。
ビジネスとして成り立たせ、僕たちの想いが達成できるのは5年、10年とかかると思います。2026年には5,000か所の村に展開していきたいと考えているので、そこに向けてどれだけスピード感を持って取り組めるかが重要です。
—今後、SDGs Challengeへの参加を検討している方へメッセージをお願いします。
SDGs Challengeに採択された企業への助成金は最大200万円です。僕らのように主に海外事業をメインにしながら、実証実験のための予算がない会社にとって非常にありがたく魅力的だと思います。さらにこのプログラムの場合、UNOPSという国連機関の名前も支えになります。自治体は、自分たちの地域の課題解決のために事業をしてくれる企業へのサポートというのが多いと思いますが、その点SDGs Challengeは特殊だと思います。僕らのように海外のフィールドを100%とするところに対しても自治体が応援してくれるわけですから、かなり珍しいですよね(笑)。事業を一歩前進させたい、スケールさせたいと思っている会社にとっては応募してみる価値はあると思います。