「だれもが大切な人としあわせでいられる社会へ」というメッセージをかかげ、家族・パートナーシップに関する社会課題を解決するべく2021年に株式会社Unwindを設立した橋本佳音氏。セクシャルウェルネスブランド『mahoro』を立ち上げ、CBD配合の国産潤滑剤の製造にチャレンジしたクラウドファンディングも無事達成、ここからさらにパートナーシップについて気軽に相談できるコミュニティを育んでいくことも事業とする彼女が、起業に至ったきっかけや、SDGsChallengeのプログラムに参加したことで芽生えた課題意識について聞いていきます。
株式会社Unwind
代表者:橋本佳音
設立:2021年7月27日
住所:〒651-0086 兵庫県神戸市中央区磯上通4丁目1-14 三宮スカイビル7F 120 WORKPLACE KOBE内
事業内容:化粧品の企画販売、新規IPの開発、webサービスの企画・運営 イベントの企画・運営、コミュニティの運営
https://unwind-inc.co.jp/
–もともと橋本さんは『とぅるもち』というハンドルネームで性に関する情報発信をWEBメディアやSNSを中心におこなってこられていました。そこから、今回事業化しようと発起されたきっかけをまずお聞かせいただいてもよいですか。
橋本
「性に関することだけでなく、もとを辿れば自分が見たり得たりしたことを発信したいという意思はそれこそ中学生の頃からありました。当時からブログで、たとえば東日本大震災の頃に親が復興支援の現場に一緒に連れて行ってくれたことだとか、その後も大学時代に社会学系の専攻だったのでインドにフィールドワークへ行ったりだとか。そういった経験を書いて伝えるという意味でジャーナリズムや記者といった仕事も学生時代には興味を持っていました。当時、アダルトビデオ出演強要問題が社会的に取り上げられていたりして、それは当時の自分としてはかなり興味を持っていた話題だったのでマスコミ塾に通ったりもしました」
–その後、大学卒業後はアダルトライブチャット運営会社に就職されたとのことで、フィールドワークという意味でもかなり思い切ったのでは、と、橋本さんのご経歴を拝見しながら、考えていました。
橋本
「そうですね。ジャーナリズムの立場からAV出演強要問題を扱って自分のテーマとしてしっかり発信するとなったら10年はかかるよ、と学生時代にアドバイスされたのもあって、それよりは、より現場で自分がしっかり見たことを自分なりに発信しよう、と、その会社に就職しました。新卒でこのビジネスの仕組みを知りたいという動機で入って来る人なんてまずいない業界だよ、とは言われましたけども」
–性産業とテクノロジーのかけあわさった、ある意味での“最前線”で働かれて、当時はどういったことが見えてきましたか?
橋本
「2年ほどその運営会社で働いてみて、実際、すごく雇用が生まれているんだな、ということがわかりました。たとえばシングルマザーの方も結構いらっしゃって。けれども、性産業は儲かりやすい分、すごく大変でリスクの大きい事案がたくさんあるということも具体例をもって知れましたし、男性側の性に焦点が当てられたビジネスゆえ、女性側の身体への負担が過大、かつ、そこで働いている女性自身も知識が足りておらず自身の身体を傷つけてしまうことが多々あるんだなと痛感しましたね」
–その運営会社でのお仕事で知った課題をもとに、性に関することの発信をスタートされたのですね。
橋本
「もともと性に関することには漠然と関心があったので、その仕事をしている頃から、少しずつですが自分の趣味の延長的にSNSやブログを通して発信を始めていきました。すると、いろいろなお悩みが自分のもとへ飛び込んでくるようになったんです。内容はさまざまではあるのですが、もっと性教育がしっかりしていれば悩む人が少なかったり、誰に相談すべきかわかるんだろうなと痛感することばかりでした。でも、性教育については、今すでにがんばっている方々がたくさんいらして、きっと今の十代とか、これから生まれてくる子どもたちはもうちょっといい性教育を受けられるんだろうなと思います。それよりも、私だったり、それ以上の年代だと性教育をちゃんと受けていなくてみんな彷徨っている印象を受けていました」
–相談するべき先が見つかっていない大人たちが実はこれだけいるんだ、と。
橋本
「はい。なので、そちらに向けて今やるべきことがたくさんあるな、と思うようになって。でも、私個人の力・発信だけでどうにかできるかといえば、それはすぐ限界がくるのも見えていました。ならば会社としてやっていたほうが、各所にアプローチした際も受け入れてもらいやすいですし、個人でやるよりインパクトを出せるのかな、と。私自身、今は性のお悩みをカウンセリングできる資格を持っているんですけど、もっといろいろなカウンセラーさんと組んだりして、性のカウンセリング自体を広めていったほうが、みんな悩みを相談しやすい場をたくさん作れるんじゃないかなと思ったのが、事業化しようと思ったきっかけでした」
–性のお悩みごと、パートナーシップに関するカウンセリングができる人自体を増やしていきたいというところが、起業のきっかけだったんですね。
橋本
「でも正直なところ、多くの人から同じお悩みが来すぎていて、いやいや、これカウンセリングで対応するというより、もっと手前で情報が提示されていたらこうはなっていないだろうって思ったのが大きいです。そのため、セクシャルウェルネス領域で『mahoro』というブランドを作り、プロダクト制作を始めてみることにしました」
–最初のプロダクトはCBD配合の国産潤滑剤、ということですが、クラウドファンディング(https://motion-gallery.net/projects/femtech-sexualwelness )も実施されてみて、手応えはいかがでしたか?
橋本
「私自身、性交時の違和感のための潤滑剤活用にもともと興味があったんですが、自分で作るにしてはもう既にいろいろと世に出ているしなあと考えていたところ、CBDを取り入れたらメンタル面でのパートナーとのトラブルみたいなものも軽減できる可能性が、もしかしてあるかもねと知り合いに言われたことがあって。それはちょっとやってみる価値あるのではって閃きました。また、それをカウンセリングを繋げて届けられたらいいんじゃないかっていうことを2021年はずっと考えてきましたね。正直、このブランドを立ち上げるとき“順当にいけば銀行からの融資もいけるでしょう”って周りの方々も応援してくれていたので、私も“いけるかな”くらいに思っていたら無理だったんです。“セクシャルウェルネスで心のサポートを”というメッセージは、一般的にはまだまだ説明が必要だし、資金調達ももちろんそうですが、多くの方に相手に話を聞いていただくためにどういうメッセージやアプローチをしていくか、トライをしている真最中です」
–SDGs Challengeとクラウドファンディングはほぼ同時並行だったんですね。
橋本
「そうなんです。実際にこのSDGs challenge内で、融資を受けられなかった件を相談してみたら、まずはクラウンドファンディングをやってみて、そこで実績が出たらもう少し風当たりがよくなるかもしれないと提案いただき、参考になりました。このプログラムに参加したのは、助成金などをいろいろと調べていたときに、本当に申し込みギリギリくらいのタイミングでたまたま存在を知り、“え!神戸だし、めっちゃ近くだ!”と駆け込んだ、という感じです(笑)」
–実際に参加してみていかがですか?
橋本
「私にとっては、起業について全然まだ知識もなく情報を持っていないなか、先輩起業家の人と出会える機会を探して、『0から1にする』という部分、つまり『どのように事業をつくるのか』を本当に初めて、学んでいるなと思います。ここの方々はタブーとかそういうことはなく、かつフランクにいろいろと話してくれてアドバイスもくださって。そういう姿勢とか、そもそもほかの社長さんを間近でみる機会がなかったので、すごく参考になって。そんななかで、クラウドファンディングも初挑戦して。まあギリギリでどうにか達成できた、という感じです。泥臭さだけで、ひたすら知り合いの方に告知をしたり、毎日配信をしてできる限り知ってもらえるよう必死でしたから」
–すべてが初めてで、本当に大変だとは思うのですけども、お話を伺う限り、手応えや達成感はかなりあるというふうにお見受けします。この先は、どのようなビジョンをお持ちですか?
橋本
「女性がもっと性についてフランクに話をしやすく、それによりカップルや夫婦のパートナーシップがよいものになる世界。そこが目指したいところです。女性が性と向き合うことでもう少し自己肯定感が上がれば、日本人全体の自己肯定感も上がるんじゃないかなって思っていますし。また、もしこれが、たとえば3年前だったらまだ『フェムテック』という言葉も浸透しておらず、受け入れられ方は違ったのだろうなって思っています」
–世の中の機運が変わってきているんですね。
橋本
「今までだったら“アダルトグッズ”という枠で括られて終わっていたであろうものが、『フェムテック』という概念が浸透してきたことで、もっとひとりひとり、自分の身体もお互いのことも大切にしようという意図を伝えやすくなったのは強みですね。でも、まだまだですよね。“自分の快感について話すことは、自分を愛すこと”というような考え方も、セクシャルウェルネス界隈ではもう当然という雰囲気がありますけど、一般的にはやっとスタートラインです」
–橋本さんがこれからがんばりたいことは何ですか?
橋本
「自分が事業をするにあたり、知識はあればあるほどいいですし、本当に起業って総合格闘技のよう。でも私は本当にそういうインプットが遅いって自分でも思っていますし、同年代の起業家を見ているとスピード感などすごく刺激を受けます。そういう人たちって実際、東京にたくさん集まっていると思うのですが、東京に行かなくても地元のいいものを活かしたりしながら起業されている方とSDGs Challengeの場で出会えたことは大きな財産でした。私も事業を始めたからにはいずれ東京でやるのかなってなんとなく思っていたんですけど、今は兵庫でやっていこうと考えています。ずっと住んできた兵庫の要素を取り入れてオリジナリティも出していきたいですし。今まで特に地元に愛着なんて無かったんですけど(笑)、こんなことができるんだ、っていう発見がたくさんありました。そこはこのプログラムでかなり変わったところかもしれない」
–ありがとうございました!最後、これから起業を考えている方へメッセージがあればお願いいたします。
橋本
「このプログラムの皆さんはいろいろと話しやすくて、こういうちょっとタブー視されやすいような分野であっても、全然偏見なく意見やアドバイスをくれてありがたかったです。また、事業について全く知識がない私のような状態からスタートしても、こういうコミュニティに行けば皆さんが助けてくださったりするんだなとわかりました。やりたいことがあったら意外となんとでもなりますよってお伝えしたいですね」